高校3年生になって担任の先生が替わったとたん、「あなたには無理だ」と言われた。──そんな相談を、今年もある生徒から受けました。
進路の話です。けれど、これは英語の点数より、ずっと大切な話だと思っています。
ある生徒の話
その子は、県内の国公立大学の看護系に行きたいと思っていました。前の担任の先生からは、指定校推薦がもらえそうだと言われていて、本人もそのつもりでいました。
ところが、3年生になって担任が替わりました。新しい先生は、いきなりこう言ったそうです。「あなたには無理だ。明日受験しても合格できない」。そして、推薦が取れそうな、都内の私立大学の看護系をすすめました。
その子は、ずっと悩んでいました。
本当は、はじめの志望校に行きたい。でも、推薦はもらえないかもしれない。じゃあ、すすめられた大学にしようか。でも単科大学だから、少しつまらないかもしれない。でも、落ちたら怖い。どうしよう──。
頭の中で、その堂々巡りをずっと続けていたのです。
悩みの正体は、「情報が足りないこと」でした
私はその子と、じっくり話をしました。すると、はっきりわかったことがあります。
この子は、自分の想像だけで悩んでいた。
たとえば、はじめの志望校。推薦がだめでも、一般入試という道があります。調べてみると、共通テストでも、合格に必要な点も、6割前後とれれば十分に届く水準でした。今から勉強していけば、間に合う。決して、手の届かない場所ではなかったのです。
すすめられたほうの大学も同じです。本人は一般入試の過去問を、一度も見たことがありませんでした。だから、難しいのか、自分にも解けるのかも、わからない。「落ちたら怖い」という不安だけが、ふくらんでいました。
そこで、私は実際の過去問を見せました。すると、その子はこう言いました。
「思っていたより、難しくないかもしれない。これなら、できるかも」
悩みが消えたわけではありません。でも、判断するための材料が、ようやく本人の手元にそろったのです。
推薦の枠は、いつも生徒のためだけに使われるとは限りません
ここで、知っておいてほしいことがあります。
「あなたには無理だ」という言葉が、必ずしもその生徒の力を正確に見て言われているとは限らない、ということです。
学校には、学校の事情があります。合格実績、推薦枠の配分、過去の結果。指定校推薦は、学校が誰に枠を与えるかを決められます。そして、その配分が、生徒一人ひとりの希望よりも、学校全体の実績を優先して決められることが、現実にはあります。
私は、それで進路に苦しんだ生徒を、一人ではなく、何人も見てきました。志望校を諦めるよう言われ、毎晩のように悩み、心と体を削っていく子もいました。
私は、すべての先生を責めたいわけではありません。けれど、「あなたには無理だ」の一言を、その子のためを思って言われたものだと、無条件に信じてしまうのは危ういと思っています。
そして、もう一つの問題は、生徒のほうも、たった一つの言葉だけを握りしめて、進路を決めようとしてしまうことです。
「あなたには無理だ」を、そのまま信じてしまう怖さ
生徒も保護者も、先生の言うことは正しいと信じています。当然です。受験の情報を、自分ではほとんど持っていないからです。
だから「あなたには無理だ」と言われると、そのまま信じるしかない。ほかの情報を、自分で取りにいこうとはしない。
でも、その一言だけで、自分の進路を決めてしまっていいのでしょうか。
実は私自身も、行きたかった大学を反対され、納得できないまま受験生活を送った経験があります。あのとき感じたもやもやは、今でも覚えています。だから、「他人の判定だけで進路が決まっていく」ことのつらさは、よくわかるのです。
決めるのは、情報をそろえてから
進路は、誰かに「無理だ」と言われて諦めるものでも、「ここなら受かる」と言われて流されるものでもありません。
まず、判断するための材料をそろえる。
その志望校に、推薦以外の道はないか
一般入試なら、何点とれば届くのか
過去問を実際に見ると、どう感じるか
今から、間に合う可能性はあるのか
とはいえ、「どうやって調べればいいのか」が、そもそもわからないこともあると思います。そんなときは、まずAI(ChatGPTやGeminiなど)に聞いてみるのも一つの方法です。無料で使えるものでも、「一般入試と推薦はどう違うのか」「この大学を受けるには何を調べればいいか」といった、調べ方の地図は教えてくれます。何から手をつければいいかわからない状態から、抜け出す助けになります。
ただし、注意が一つあります。合格に必要な点数や倍率といった具体的な数字は、AIが古い情報や、もっともらしい誤った情報を答えてしまうことがあります。そこは必ず、大学の公式サイトや募集要項で確かめてください。AIは入り口を教えてくれる道具で、最終確認は自分の目で、と考えておくと安全です。
そして、もう一つ。「その過去問が、自分に本当に解けるのか」「今から始めて、間に合うのか」を見極めるのは、AIには難しい部分です。ここは、人と一緒に確かめたほうが確実です。先ほどの生徒も、過去問を一緒に見たことで、「これならできるかもしれない」と思えるようになりました。
これらを確かめたうえで、それでも「やめておこう」と本人が決めたなら、それは立派な判断です。でも、何も見ないまま「無理だと言われたから」で決めてしまうのは、もったいない。
自分で決めた進路なら、たとえ結果が思うようにいかなくても、自分の足で次に進めます。けれど、人に言われて諦めた進路は、ずっと「あのとき本当はどうだったんだろう」という問いを残します。
最後に決めるのは、先生でも、親でもありません。あなた自身です。だからこそ、決める前に、ちゃんと情報をそろえてほしいのです。